大嘗祭という天皇即位後に行われる儀式について

 こういう機会なので?、自分が天皇について知っているトリビアルな事柄について書いてみたい。

大嘗祭(だいじょうさい)というものがある

 これは塾の古文の先生から聞いた話だ。天皇がする儀式のなかでも、かなり特殊なものらしいが、残念なことに詳しい部分まで覚えていない。ネットで検索すると大嘗祭(だいじょうさい)という読み方が一般的らしいが、その先生はこういう読み方はしていなかったと記憶している。

 この大嘗祭天皇の即位後に行われるらしいので、もし天皇が生前退位?したらこの大嘗祭の位置づけはどうなるのか。即位後すぐに行われるのか、それとも天皇崩御した後に行われるのか、ということは当然問題になるだろう

動画で見る大嘗祭

 そういうことで検索したら、大嘗祭を撮影した動画が見つかったので、ここで紹介する。


大嘗祭

【ここから書き起こし】

日本全国を精力的に巡られている天皇皇后両陛下は

私たちの目に触れることのない宮中祭祀でも

そのお役目を果たしていらっしゃいます。

 

平成2年に行われた大嘗祭は、

天皇が即位されて最初の新嘗祭に当たります。

 

この時は特別に撮影が許され

厳かな儀式の一部を拝見することができました。

 

歴代天皇に受け継がれていくこの神事は

天皇陛下がおひとりで執り行うものです。

 

陛下が神々とともに召し上がるという食事が

見慣れぬ器によって運ばれて行きます。

 

器は柏の葉で作られたもの

古来からその形は少しも変わっていないそうです。

この器に神饌と呼ばれる神様の食事が盛られます。

 

柏は新しい芽が出るまでは古い葉が落ちないところから

家系が絶えないという意味があると聞きました。

 

天皇陛下天照大神をはじめとする

八百万の神様とともに穀物や海の幸山の幸を頂き、

五穀豊穣と国民の幸せを願う新嘗祭

宮中祭祀の中で最も大切なものとされています。

 

同じ11月23日三重県伊勢神宮でも新嘗祭が行われ

昭和天皇の四女池田厚子さんが祭主を務めていました。

 

米を主食とする日本人は、古代から

神々に豊かな収穫を祈り続けてきたのです。

 

例年陛下は新嘗祭の一日

深夜まで国民のために祈りを捧げます。

 

共に祈ることができない皇后さまは

白装束に身を包んで御所にこもられるとか

 

その年に各所から届けられた穀物の名前を書きながら

陛下と同じ思いでその日を過ごされるとのことです。

 

【書き起こし終わり】

 

 この動画だと儀式の具体例についてはほとんど触れられておらず、その様子も撮影されていないのでさっぱり分からない。分かるのは以下のこと。

  • 天皇ひとりで行う儀式ということ
  • 儀式には神への食事が用いられるということ

大嘗祭研究の祖 折口信夫

 そういうことなのでさらにネットで調べてみた。

 この大嘗祭について、最初に本格的な研究をしたのは民俗学者折口信夫という人らしい。そして、この人の研究が、大嘗祭についての多少ゴシップめいた言説の形成に大きな影響を及ぼしている。自分が塾の先生から聞いたのも、この折口信夫の論だったようだ。

 折口信夫大嘗祭研究については、青空文庫で読めるが、文章が読みにくいうえに長いので、ここではリンクを張っておくだけに留めたい。

折口信夫 大嘗祭の本義

折口の影響を受けた一見解

 この折口の大嘗祭研究については以下のホームページでうまくまとめられている。

現代の落首

これによると以下のように書かれている。

戦前、軍国主義教育の中では天皇は現人神と教えたように、天皇は神と同一なのである。いわゆる現人神が天皇の本質である。しかし「現人神」は神の名前ではない。逆に神の名が「天皇」である。前天皇の死去により皇太子が即位し「(半)天皇」になり、その後「天皇という神」になる儀式が大嘗祭である。

 天皇=神だが、前天皇が死去しただけで、その子(前皇太子)が自動的に天皇になるわけではない。天皇が死去した後のその子は「(半)天皇」の状態にあるのであって、大嘗祭という儀式を経て、初めて天皇になる、ということらしい。大嘗祭=「天皇という神」になる儀式というのがこの人の意見だ。(もちろん国家の制度としての天皇制の解釈とは異なる)

 そうなると大嘗祭という儀式のどの時点で神になるのかが問題になる。これについては

大嘗祭の為に特別に総檜づくりの大嘗宮が建造される。その中心は、意外にも御衾と呼ばれる寝室である。布団、御坂枕と称する枕、畳が八枚重ねられたベッドなどがおかれている。何故、大嘗祭の中心が寝室なのか。

  大嘗祭が執り行われる場所の中心には寝室があり、その中には枕と畳が八枚重ねられたベッドが置かれているとのこと。

 そして次からがこの大嘗祭の真相なのだがどこまで本当なのかは分からない。

古来、「血分けの儀式」というものがあった。現在でも新興宗教のあるものには、宗祖が信者と性的な交渉をして洗礼を授けるものがある。これは血を受け継ぐきわめて厳粛な儀式である。ようするに大嘗祭は三位一体の神の血を受け継ぐ神聖な血分けの儀式である。その為にベッドが必要不可欠の道具となる。また目に見えない神とベッドインするわけにはいかない。当然女性の存在が必要になる。大嘗祭にもサカツコと呼ばれる女性が重要な役を演ずる。

 つまり大嘗祭は女性を媒介にして神と一体になるための儀式ということらしい。さらにこの女性については次のように書かれている。

その女性は「未ダ嫁ガズシテ ・・・」とあるように巫女である。ただの巫女ではこの重要な大嘗祭には間に合わないし意味がない。一般には知られていないが、そのサカツコに神が宿ると意味される儀式が、伊勢神宮近くで大嘗祭の数日前に行われる。巫女に三位一体神が大嘗祭の前に「降臨」し準備が整う。その後、大嘗祭でのベッドインで天皇が三位一体神となる。

  大嘗祭の数日前に、伊勢神宮天照大神を巫女であるサカツコに「降臨」させ、大嘗祭での「儀式」によって、神と天皇が一体となる。

 以上ここまでが折口他の民俗学者を参考にしたこのサイトの作者の考察である。サカツコが伊勢神宮を訪れて儀式を行っている、というのは定かではないとのことなので眉唾ものだが、考え方のひとつとして面白い。もっと詳しく知りたい方は、現代の落首―大嘗祭考―(http://nagi.popolo.org/zatubun/rakusyu.htm)でどうぞ。

大嘗祭の一般的解釈-Wikipediaより

 この点、Wikipediaはもっとあっさりと書いている。

悠紀殿では、神饌を神に供し、告文を奏して神と直会(なおらい)、つまり神に献じた神饌を、天皇親ら(みずから)聞こし召す(食べる)のである。廻立殿に戻り、次いで主基殿(千木は伊勢神宮内宮と同じ内削ぎ)に入り、悠紀殿と同じことを行う。

 (大嘗祭 - Wikipediaより)

 こちらでは神に献じた食べ物を、天皇が自ら食べることで神と一体化する、というように解釈できる。しかし、これでは儀式が寝室で行われ、部屋内に寝具があることの意味が良く分からない。しかもこの寝具には、天皇自身は入らないのだという。では寝具の存在理由は一体どこにあるのか、という疑問が残る。

大嘗祭のゴシップ的見解

 大嘗祭について雑誌『噂の真相』が書いた記事がアップされていたので、最後にこれを紹介したい。内容はかなりゲスだが、大嘗祭を考える上では参考になる。

神秘のヴェールに覆われた大嘗祭における秘儀の真相-『噂の真相』

 生前退位が行われた場合の大嘗祭

 これまでの考察を振り返ると、大嘗祭というのは天皇と神を一体化させる儀式ということになる。ということは例え今上(平成)天皇が退位したとしても、神あるいは霊性のようなものは退位後の天皇上皇?)に残るということだ。今上天皇から次の天皇へ神を移すには、そのための儀式が必要になると考えるのが妥当だ。昔は天皇の譲位が行われていたというが、そのための儀式が復活するのだろうか。それとも譲位後も、神を今上天皇の内に居続けさせることにして、崩御後に改めて大嘗祭を行うことになるのだろうか。

 生前退位のための法律を作ることは、改元の時期を前倒しするだけなので、政治的にそこまで問題にならないかもしれない。しかし今回この大嘗祭のことを調べて、宗教の解釈の問題、一貫性の点において矛盾が発生するのではないか、という点が気になった。

 前述の『噂の真相』によると、昭和天皇崩御の際に大嘗祭の予算の問題が国会で議論になったが、この大嘗祭の儀式の内容までは問われなかったという。生前退位の法律案が作られる際には、この大嘗祭の内容について議論が交わされることはあるのだろうか。

 

天皇陛下の全仕事 (講談社現代新書)

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