美輪明宏の「正負の法則」と瀬戸内寂聴(書き起こし)

先日、美輪明宏瀬戸内寂聴の対談をBSで放送していて、これが大変おもしろかった。何がおもしろかったのかというと、このふたりの生き方に関する哲学がまったく正反対だったからである。以下に対談中の二人の会話を一部書き起こしてみる。

 

輪)輪さんはいろんな才能に恵まれてて、世の中に羨ましい人なんて誰もいないんじゃないですか、って言われて。でも、私は別に才能にも恵まれていないし、ドジだし、お料理一つもできないし、プライベートではドジの連続で自己嫌悪になりますよ。ただし、羨ましい人なんてこの世にひとりもいませんって言うんです。はぁ、やっぱり凄い自信だ!って。自信じゃありません。だってこんな小さい方からお年寄りまで、65億っていう地球の人口で、いろんなことがありますね、対人関係とか、容姿、容貌、顔、形とか、能力であるとか。それから病気であるとか。とにかくどれか一つでね、苦しみ、悲しみ、痛み、劣等感。こういうものを持っていない人はこの世に一人もいませんよ。だからお互い様なのよ。だから…

(瀬戸内)でも劣等感無かったでしょ?

輪)はい?

(瀬戸内)劣等感無かったでしょ。美輪さんは。

(美輪)そうそうそう、劣等感無いんです。

(瀬戸内)無いんじゃないですか(笑)

(美輪)だから…

(瀬戸内)そう、そんな人もいますよ。たまには。

(美輪)というのは、劣等感なぜ無いのかって言ったら、私はすぐ全部突き詰めて考えるんですよ。そうすると、世の中の人ですべてに恵まれてる人って誰もいないんですよ。

(瀬戸内)うんうん。

(美輪)だから、大金持ちの人達ってたくさん知ってますけどね。必ず末路が哀れですね。何の為の人生だったの、って。身分不相応なお屋敷建てたり、必ず屋敷のっとられるとか、奥さんに浮気されるとか、子どもさん病気されるとか、本人ががんになって死ぬとか。いろんなことがツケがくるんですよ。だから「お父さん近所に凄いお家できたわよ、羨ましいわよ、早くあんなお家建てて、だらしないわね」なんて言う必要ないんです。「お父さん、凄いお家できたわよ。今に何か起きるわよ!」

(会場)(笑)

(美輪)だからね、人間はほどほどの雨露がしのげるお家があって、そして着るものなり食べるもの、そこそこにあって、そして愛するお友達なり、恋人なり、家族なり、誰かいてくれれば、それが一番平和な幸せな人生。骨折り損のくたびれ儲けにならなくて済むんですよね。あの世に持っていけないんですもの、死んでしまったら。家も土地も財産も。誰かのものになっちゃう。だから一時この世で借りてるだけなんですよね。

(瀬戸内)うん。

(美輪)それに気がつけば、みなさん無駄なことはしないんですよね。だからわたくしは無駄なことはしたくないんですから。

(瀬戸内)うん。

(美輪)だから腹六分、腹八分っていうのがこの人生の一番のコツだと思っていますけど。

(瀬戸内)・・・

(会場)・・・

(美輪)いかがでしょうか?

(瀬戸内)(笑)

(会場)(笑)

(瀬戸内)おもしろいでしょ?ね?こんなこと滅多にないですよ。私はもう93(歳)だからまもなく死にますからね。これが最後かもしれない。それでね、三輪さんだってね、いつまでもこんなお美しいはずないと思わない?だから今80(歳)ですってね。80(歳)と見えないでしょう。だけどやがて80(歳)に見える日も来るの。だから三輪さんは本当にお美しいでしょ。それで、ご自分で鏡を見て、自分はどうも人より美しいと自覚したのはおいくつですか?

(美輪・瀬戸内・会場)ハハハ・・・

(美輪)いいえ。小さいころにかわいいかわいいと言われてて、そして中学1年にあがるかあがらないか、そこいら辺から、かわいいじゃなくてきれいだって言われるようになったんですね。そのありがたみとか実感がないんですね。こんにちはとか、さようならとかそういうものと同じ感動しかないんですね。ですから当たり前だと思ってるし・・・

(瀬戸内)はぁー

(美輪)で、私、家が2件ありましてね。昨日も行ってきたんですけど、本籍地は山里町202番地、今では平和町ってなってますけどね、長崎の原爆の中心地。あそこがもろにやられて、おばなんかが住んでたんですけど、私は行ったり来たりしてて、もう一件は父方の方で本石灰町っていいまして、そこでカフェとかやって、丸山遊郭の寄り合い町のところで、一階がお風呂屋さんで、上が料亭で、そういうものをやってましてね。戦前は色街でございまして。

(瀬戸内)ええ。

(美輪)お風呂屋もやってます。そうするとお風呂屋さんにアレが来るんですよ。あの、いろんなお客様が。今でこそどんなアパートにだってお風呂がありますけれども、昔はお風呂のあるうちが尊敬されたくらいで、皆さん少々良いうちの人が、お風呂に入りに来ます。で、立派な身なりの人が裸になると、へー、っていうような、ね。本当に干物が、なんか削ぎ落としたような気の毒な体だったり、それからヨイトマケのおばさんみたいにね、肉体労働者で、昔は1年に一回洗張するかしないかぐらいで、他所行きが一枚、普段着が一枚。

(瀬戸内)一張羅!

(美輪)フフフ、そういう時代でしたでしょ。そのおじさんおばさんが裸になるとマヨールの裸みたいな素晴らしい体が出てくる。へぇー!着てるものってインチキじゃない、裸がこの人の本物なんだ!って。

(瀬戸内)うん。

(美輪)それから今度はカフェやってますと水商売で、街のいろんな種類のお偉いさんが見えるわけですよ。ところが普段、行いすましてやっている人がお酒とともに正体表して、ホステス、女給さんの裾に手を入れたり、頭入れたりしてひっぱたかれて、酒かけられてヘラヘラしてる。この人の昼間の顔一体何なの、嘘じゃない、これが本物?それから私は人を見た時に着ているもの、容姿、容貌、顔、形、年齢、性別、国籍、肩書き、一切見ないで、目の前にいる人の心が純度がどれだけ高いか低いか美しいか優しいか思いやりがあるかとか、そっちばっかり見るようになったんですね。だから人々に私は見えるもの見なさんな、見えないものを見なさい、それは心ですよ、目の前の心がね、どうかってそれだけが問題です。そういう価値観で見るようになったんで、自分がきれいだとか、汚いだとか、そんなこと仮の姿であってどうでもよろしい。とにかくそうじゃなくても美しい心の人もいるわけだし、で、また正負の法則ってね、正しいと書いて負けると書いて、プラスとマイナス、陰と陽、吉と凶、この二つのもので世界は成り立ってて、もの凄いきれいな人っていうのはそれだけのもの凄いツケがくる。クレオパトラ小野小町楊貴妃、ロクな死に方してませんよね。

(瀬戸内)アハハ、そう。

(美輪)だから女の人もクレオパトラも毒蛇に胸噛ませて自殺、楊貴妃も絞め殺されて変死、小野小町は行方不明で野垂れ死。だからあんまり美しいとそういうことなるんで、まぁどうにか見られなくもないかなぁっていう程度のちょうど皆さんぐらいの方がね…

(瀬戸内・会場)(笑)

(美輪)平和な人生を送れるんですよね。良かったですね、みなさん。神様に感謝してください。

(瀬戸内)ハハハ。いや、三輪さんは美しく生まれたからこういうことおっしゃるのね。でも私の場合は、姉と二人兄妹何ですよね。それで姉は色が白くて小さくてかわいらしかったらしいんですよ。そのあとに私が生まれたら、もう来るお客がみんな褒めないのね。私のことを褒めないで、この子はなんだか賢そうねぇ、丈夫そうねぇ、とかいうんですよ。女の子なのに。それで物心ついた時には鼻が低いってことが分かったのね。それで色も黒いってことが分かったの。私それが恨めしくてしょうがなくて。それで昔の洗濯ばさみって木だったのよ。今はプラスチックでしょ。木の洗濯ばさみだったの。それを取ってきてね、それをこう綿を置いてね、洗濯の(聞取不可)に寝てたんですよ。そしたら母がそれを見つけて、お前は鼻が低くて色が黒いけど、頭が良いからそんなに卑下しなくていいってこをそ一生懸命言う、だけど自分が産んどいてね、責任は向こうにあるんですよ。それでね、何を言うかと思って聞いてたら、勉強したらいいなんて言ってごまかしてましたけどね。私は美輪さんとは違って、自分がどうしてこの程度で可愛く生まれなかったって、ずーっと腹が立ってたの。

(美輪)フフフ・・・・

(瀬戸内)だからあなたたちちょうど良い(容姿だ)なんて。そんなの嫌よね!

(会場)(笑い)

(美輪)でもね、やっぱりわたくしが男だ女だかわかんないってんで、しかも戦争前だし、戦時中でしょ、封建主義、軍国主義の世の中。だから女々しいって。だからとにかく着物一枚でも美しい着物着てたら。またお前!って警察に引っ張られてモンペに着替えさせられて。まぁ男は坊主頭で国民服、そういう時代でしたでしょ。ですからなんだよこいつ、女の腐ったような顔しやがって、そういうもののイジメもたくさん受けましたよ。

(瀬戸内)でもね、美しく生まれたことで損をしたと思いでしょうけど、美しく生まれたことで得をした、そういう自分は幸せだったと思ったこともおありでしょ。それはいつ頃ですか?

(美輪)だから正負の法則なんですよ。

(瀬戸内)はぁ。

(美輪)美人薄命とかね。美人薄幸。幸せが薄い。だからどっちかを選ぶかですよね。ですから、いろんな人見てみましたけど、美しい人っていうのは恐ろしいことに落差ってものがくるんですよ。これは怖いです。ツケがくる。というのは、小さい頃からカワイイカワイイ、きれいだきれいだ、って言われてても、そうである人もそうでない人も、ある程度の年代行くと、みんな横一列に並んじゃうんですよ。

(瀬戸内・会場)(笑)

(三輪)その並んだ時が勝負で、例えば同窓会の通知が来ますね。ひさしぶり、AくんもBくんもCくんも私にラブレターくれて、そうだ、久しぶりでブイブイいわせてあげましょう。それで念のためでもしかしてということもあるから、勝負の下着も着て、いつもよりも厚塗りのペンキ工事もして、そして同窓会場に乗り付けて、さぁ、賛美のまなざしを期待していたら、賛美のまなざしどころか、驚愕のまなざしで見られて、本当にこれあいつ?なんでこんな老けちゃったの?うわーこんなのと一緒にならなくてよかったな、なんて顔で見られて、プライドが傷ついて、家に帰っても夜もロクに眠れません。でも若いころからそうでない人は平気です。同窓会場行きます。よぉしばらくだね。元気してる?ちっとも変わんないねぇ。

(瀬戸内・会場)(笑)

(美輪)良かったですね、みなさんね。変わらないんですよ。

(瀬戸内)でも、この頃女の人たち、本当にきれいになりましたよ。もう50で女でないなんて!っていう雑誌もあるくらいなんです。50(歳)の人から読む雑誌。そんなの読むとね。これが50(歳)かと思うくらい、みなさんきれいですよ。それは私はね、女と生まれたからには、何を塗ったって、何を食べたっていいから美しくなった方がいいと思うんですけど、どうでしょうか?

(美輪)えぇ。

(瀬戸内)それでね美しさをずっと保ってらっしゃるでしょ、三輪さん。その秘訣をちょっと教えてください。

(美輪)そんなものございません。ただ私はもう二十歳代のころに一升酒飲んでたのを辞めましたでしょ。胃痙攣起こしましてね。これはもう歌い手の恥だと思いまして、それっきりお酒はやめて、たばこも一日百本くらい吸ってたんですけど、これも大病しまして、それで止めまして、もうそれ以来私は修道僧みたいな生活。だからプロモーターの、請負元の音楽関係者もみなさん驚かれます。宿と仕事場と行ったり来たりするだけで、どこにも、飲みにも食べにもカラオケにもどこにも行きません。お芝居は私、年に2回、春と秋にやったりとか、2ヶ月くらいありますでしょ、3時間半の舞台出ずっぱりなんですよ。でも、なんとも無いんですね。ということは節制してますでしょ。

(瀬戸内)本当に節制してらっしゃるんですね。

(美輪)ええ、ですから食べるものは、お肉はあまりいただきません。

(瀬戸内)はぁ。

(美輪)というのは、お肉をいただくっていうのは気が短くなってキレやすくなるんですね。だってライオンだって何だって肉食獣はぜんぶ獰猛でしょ。

(会場)(笑)

(美輪)そして鳥だって、ミミズクや鷹や鷲やみんな獰猛ですよね。

(瀬戸内)はぁ。

(美輪)だから草食動物だとか、草食の鳥はみんな大人しいんです。ですから私、食事もなるべくそれに沿うようにして、そして、どんなことがあっても眠るようにしてるんですね。で、あとは一日一回お経あげて・・・

(瀬戸内)三輪さんのほうが私よりずっとお坊さんらしいです。

(美輪・瀬戸内・会場)(笑)

(美輪)いえ、お坊さんじゃんくて尼さんです!

(瀬戸内)私なんか全然ダメで、今三輪さんがおっしゃったことの全部反対をやってるんですよ。それでも93(歳)まで生きてるのね。だからこういうふうに、一生懸命辛抱することもないんじゃない。だから美輪さん式か、私式か、みなさんご自分で考えなさい。

(会場)(笑)

(瀬戸内)私は肉は食べる、お酒は飲む、タバコは途中で好きにならなかったからやめたんですけど、ひと頃は飲んでたんですよ。それでも今でも本当にいけないっていうものばっかり、食べたり飲んだりしてるんですよ。それでも93(歳)まで、93(歳)まで生きたら長命でしょ。だから長生きしたい人は私のマネをしたらいいですよ。

(会場)(笑)

(瀬戸内)それで年をとっても美しくいたいって方は三輪さんのマネをしてください。

(会場)(笑)

長くなってしまったので、これに対する感想は後日書こうと思います。元ネタは以下の20分ごろからの音声です。

 


瀬戸内寂聴VS三輪明宏ビッグ対談「音声のみ」 - YouTube