息つく暇もない100分間『サブウェイ123 激突』

 

  これは個人的な映画の好みでしかないのだが、ラストで読者を納得させるような物語であっても、最初の30分がつまらないような映画はダメだと思う。

 そういう観点から言えば、トニー・スコットというのは最高の映画監督だ。トニー・スコットの映画を見ている間は時間の経つのが異常に早く感じる。めまぐるしく状況が変化し、100分前後一瞬も目が離せない展開が続くからだ。

 本作もその例外ではない。映画が始まってから、10分も経たないうちに、ニューヨーク地下鉄の運行司令部を務めるデンゼル・ワシントンは列車テロに巻き込まれる。彼に与えられた役割はごくシンプルなものだ。いかにジョン・トラボルタ率いるテログループから、人質の生命を死守するかという一点に尽きる。

 観客は主人公や犯人の素性もほとんど分からないまま最悪の状況に放り出され、犯人が提示した身代金の受け渡し期限までの1時間を、彼らのほぼ同一の時間感覚で体験することになる。つまりアメリカのテレビドラマ『24ーTWENTY FOUR』に似たようなスタイルの映画というわけだ。

 『24ーTWENTY FOUR』と違うところは、デンゼル・ワシントンの仕事がデスクワークということであり、彼が実際に行うことは派手な戦闘でも逃走劇でもなく、犯人の交渉でしかないということである。少なくとも前半はそうだ。

 ここでの最大の見せ場は、犯人がデンゼル・ワシントンに対してある告白を迫ることであり、ここで犯人とデンゼル・ワシントンの関係が変化する。そうして観客は、単純な善と悪という二項対立的な考え方を改めさせられる。この辺のセリフの練り方や物語の展開はかなりうまい。

 物語の終盤、犯人が現金の受け渡しをデンゼル・ワシントンに命じたことによって、彼は実際に犯人と対峙する機会を得ることになる。そうして遂にデンゼル・ワシントンは犯人を追いつめるが…、というお話である。

 だが最終的に良く分からなかったのが、なぜデンゼル・ワシントン本人が犯人を追いつめる必要があったのか、ということである。彼には自ら犯人を捕まえなければならない理由はないはずだし、彼が手を加えなくても警察が犯人を捕まえられたはずである。

 また途中のカーチェイスも不用意な事故が連続したりと、物語の都合で付け加えられたとしか思えないシーンが多々あり、正直萎える。序盤、中盤は良いのだが後半以降はどうにかならないものかと思った。

 とはいえ100分間ほとんどだれることなく、集中して見られる映画であることには変わりない。トニー・スコットの魅力が存分に発揮された映画の一つであることは疑いようがない。