全国区になった源たれへの違和感

わたしがこどもの頃、学校行事のバーベキューでは、ほぼ100%スタミナ源たれ(通称源たれ)が使われていた。こどもは塩辛いたれより、あまいたれのほうが好きなことが多いのだが、決定権を持つのはおとなで、こどもに決定権はない。源たれを使うことは、地域行事における「お約束」であった。

 

いっぽう各家庭では、その家好みの焼き肉のたれ(たとえば『エバラ焼き肉のたれ』)がふつうに使われていた。源たれを使うことは、あくまで公共の場でのルールにすぎなかった。

 

青森県民は源タレが、ローカルな食材のひとつであることを、じゅうぶん理解していた。上北農産加工というダサい地域色の豊かな会社名が示すように、源タレは決して全国区ではなかった。塩辛いタレはスーパーなどで、あまり見かけないが、全国には塩辛いタレが他にも存在し購入されているのだろう。源タレは狭い地域で好まれているローカルな調味料にすぎないし、これから先もずっとそうだ。そのように多くの県民は思っていた。

 

しかし時代は変わった。流れが変わったのは、2000年代の半ばである。その原因は、ローカルな食材を取り上げるテレビ番組の登場と、インターネットによってお取り寄せが可能になったことだ。秘密のケンミンショーのようなテレビ番組が、こぞって源たれをとりあげたことで、その知名度は全国区となった。そしてテレビ番組を見て興味を持った人々は、インターネットで購入可能なことを知り、源たれを取り寄せた。

 

ここまでならよくある話だが、源たれが異例なのは、イトーヨーカドーなどの大手スーパーマーケットでも取り扱われるまで、浸透したことである。もちろん、売上の点では全国ブランドに遠く及ばないものの、この結果は青森県民にとってまったくの予想外だった。

 

なにしろ青森県民が源たれを使うのは、それが好きというよりも単に「お約束」だったからである。県民は別のたれと比較して源たれを選んでるわけではなく、みんな使ってるからとか、昔から使われているからという理由で、源たれを使っていた。

 

そんなものが、全国区となっていると知ると、誇らしいというよりむしろ恥ずかしい。ググってもらえればわかると思うが、源たれのパッケージは決して洗練されているとは言えない。ビンに貼ってある金色の紙が、田舎臭さの象徴のように私には映る。加えてその味も、りんごや野菜が入っていることを売りにしているが、化学調味料の味が強くのこる。けっして健康的な食材とは言えず、時代に逆行している。

 

青森にはいろいろなおいしい食べ物があるのに、なぜ源たれが全国区になってしまったのか、という複雑な思いを抱いている県民は少なくないはずだ。ローカルな調味料にとどまっていてほしかったというのが、個人的な想いである。