ゲスと有能は両立する―安倍首相の「忖度」自虐ギャグの効果

安倍首相は17日夜、都内の商業施設のオープニングセレモニーに出席し、地元・山口県の物産も積極的に販売するよう「忖度(そんたく)していただきたい」と挨拶した。野党側は「森友学園の問題が終わったと勘違いしている」と批判している。

安倍首相「忖度していただきたい」笑い誘う(日本テレビ系(NNN)) - Yahoo!ニュース

 

 「首相としての品位に欠ける」と左派が批判する気持ちは至極当然のことと思うが、個人的には感心してしまった。安倍首相はゲスだと思うが、こういうことは本当にうまい。

 

 「忖度(そんたく)」は、森友学園関連で注目されて以来、「権力者の意図を組んで行動すること」ぐらいの意味で、主に現政権を揶揄する目的で使われてきた。森友学園問題は、主に安倍夫妻が関与している可能性があり、そこから政権打倒に繋げられるかもしれないという理由で盛り上がった。だが結局、関与を立証するような決定的な証拠が見つからなかったことから、一気に沈静化してしまった。

 

 しかし「忖度」という言葉が脚光を浴び、人口に膾炙することになったことは、今回の一件で左派が得られた数少ない成果のひとつだった。内閣支持率はあまり変化しなかったが、政治家と官僚の間の汚れた関係を国民に印象付けることはできた。その成果の象徴が「忖度」という言葉の流行だったのである。

 

 この「忖度」という言葉は、安部政権にとっての「目の上のたんこぶ」として今後数か月の間、ボディブローのように安倍政権をじわじわと苦しめるだろう。そのように左派や野党は考えていたはずだ。

 

 実際、例年の傾向通りであれば、「忖度」は2017年度の流行語大賞に高確率で選ばれるだろう。そうなれば、野党はまた安倍首相や政権与党を批判する機会を得られる。年末に放送するような1年間の動向を振り返るようなテレビ番組も同様だ。だから、「忖度」という言葉は、左派にとって今年1年間は使い続けられるような、非常に都合の良い言葉でありつづけるはずだった。

 

 しかし、北朝鮮問題によって、それまでのムードが一気に吹っ飛んでしまった。核爆発という現実的な脅威が、関心の中心として存在感を発揮するようになったことで、森友学園問題に対する世間やメディアの熱は一気に冷めてしまったのである。

 

 安倍自身もこれを好機と、シリアの化学兵器使用などにも乗じて次のようなことを言って、積極的に火に油を注いでいる。

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 そして今回の安倍自身による「忖度」発言である。このタイミングが絶妙だ。こちらでは逆に、森友問題を引っ張り続ける人々に対して冷水を浴びせかけた。安倍自身が、これを自虐ギャグと言いだしてしまったら、もう政権批判の道具としての「忖度」という言葉は死んでしまう。それを実に適切なタイミングで、そして地元のイベントという批判されにくい場所で、さらにメディアに見せつけるようにやってのけた。

 

 誰かの入れ知恵なのかもしれないが、この計画の緻密さと、計画を実行してしまう面の皮の厚さはさすがとしか言いようがない。それはある意味において、有能であると言っても良いと思う。スキャンダルや問題発言でイメージダウンする議員は、与党にも野党にもいるが、それを回避する能力という点においては、安倍に勝るものはいない。だからゲスであることと有能であることは両立するのだ。