『あ、春』


忘れないうちに相米慎二『あ、春』の感想。

 

 『あ、春』は傑作とは言えないが、うまくまとまっていて、佳作の水準には達している。相米のなかではやはり『台風クラブ』や『お引越し』といった子どもを使ったものがすばらしい。子供の演技の不安定さが、映画における武器になることを発見したのは偉大である。『あ、春』にはそういった不安定な魅力が欠けているといってもいいかもしれない。山崎努にしても、佐藤浩市にしても演技が安定していて、危うさが足りない。そういう意味で一番魅力的な役者は斉藤由貴で、あの病弱な母親の存在が、その不安定さにもかかわらず、この映画の柱になっていることは疑いようがない。

 山崎努佐藤浩市の安定しすぎた演技のほかに、もう一点苦言をあるとすれば、それは富司純子と藤村志穂の容姿や、演技の方向性の近さであり、もうちょっとキャラがかぶらないような配慮が必要だったのではないかと思う。

 相米といえば、有名なのが長廻しへのこだわりであるが、この映画に関してはほとんどあからさまな長廻しは使われてなかった。実際にはあったのかもしれないが、ほとんどそのことを意識せず見られたという点が、『台風クラブ』や『お引越し』と大きく異なる点であった。一方で手持ちによる撮影が何箇所かあって、カメラはたむらまさきなのかと思ったが、長沼六男という人がやってるらしい。主に山田洋二と組んでるカメラマンとのこと。

 個人的にはもうちょっとサービスカットというか、あまり物語上意味のないカット、ただ単に美しいだけのカットがあってもよかったと思う。『あ、春』にくらべて『夏の庭』が優れているとか劣っているということは単純には言えないけど、『夏の庭』は、サービスカットが多くて良いというか、けっこうゆったりとした時間の使い方をした作品だったんだなぁということを今更ながらに思った。

 

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